前へ  次へ  目次へ  ホーム

54b 【プロヴァンス鉄道の1日】 後編
 Puget-Thenier の駅では、まず駅長さんに頼んで、駅長室に荷物を預ける。 日本にいるときからこの町に目をつけていたのは、駅から歩いて往復できる所 に、山肌にへばりついた集落がありそうだったからだ。 
 暑い道中に備えて、駅前カフェでカン飲料を買おうとするのだが、いかんせん、 「カン」のフランス語が出てこない。いままでに出くわしたことがないのが不思 議だ。can という英語も通じない。「金属容器」でやっと通じた。「ない」とい う。 
 橋を渡って、旧市街に入る。国道に沿っているせいか、結構、観光客むけのお店 が多い。
交差点に、Auvare 1.1 km という標識が出ていた。Auvare は、高い所にへばり ついている、かなりアクセスが大変な場所である事は写真でも知っていた。それ が 1.1 kmならたいしたことはない。 町をでて1キロも行かない所にいた青年達に、「この道は、Auvare に行くの ?」と聞いたら、「まず最初の分岐を右へ、次の分岐を左に行くといいよ。」と 教えてくれた。「一番最後の集落だよ。」と付け加える。 「歩いていくのかい?」と聞かれたので、「そう」と答えたら、「Bon chance (= Good luck)」といわれてしまった。この意味が解るのには、あとしばらく時 間が必要だった。 
 10分も行かないうちに、作業用のバンが自分で止ってくれて乗せてくれた。こ の上の、Puget-Rostang で家具・建具職人をする青年だった。 「途中まで道がいっしょだから、そこまで乗せていってあげる」と親切だ。とこ ろが、結構、Puget-Rostang までも距離がある。これは助かった。 

さて、Puget-Rostang の入り口で、Auvare 行きの道が左へ分岐する。 青年は、「帰りの列車の時刻は?」というので、「3時40分頃」と答える。 「それじゃ往復は無理だ。ここから6キロあるから、私がAuvare まで送ってあ げよう」と言ってくれる。 恐縮してしまう。どうやら、標識には、11キロと書いてあったのだろう。一 応、5万分の1の地図も持っているが、どうみても10キロはある。軽率だっ た。
 ところが、ここからAuvare までの道がまた強烈である。山肌をおおきなジグザ クでのぼっていくと、植性がかわってきて、羊が飼われる牧草の斜面になる。 Auvare の標高は1000mを越えている。
   「そんな山奥に何しに行くのか?」と聞かれたので、とりあえず「写真を撮る」 という。「なんのための写真か」という質問には、「インターネットに載せるた め」と答えたが、どこまで分かってくれたのだろうか。 
 村の入り口でお礼を言って別れる。ガイドブックによると、住人は10数人らし い。犬の方が多いのではないかしら。よく吠えられた。 
 さて、時刻は2時をまわっている。下りとはいえ、1時間40分で11キロを歩 くのはかなりきびしい。とはいっておれないので、とにかく小走りに下る。道路 わきに1キロごとに黄色い標柱があるので、ペースがわかる。10〜12分で1 キロ歩く。やっぱり、昨日のうちにディーニュまできて、1番列車に乗るべきだ ったか。駅は、はるか、はるか谷底にあり、見えない。 6キロ下って、Puget-Rostang からの道と合流したところで、車が来る。止める が、「駅ではない方向に子供を迎えに行く」という。「それでもいいから、その 先の交差点まで」というのが通じない。おしい。 
 つぎの分岐で、別の道とも合流して、もう3キロくらいだが、3時15分ころに なってしまった。もし今晩の rendez-vous に遅れると、相手におおきな迷惑が かかる。しかも、責任はわたしの計画の甘さだ。もし、青年が乗せてくれなかっ たら、徒歩で折り返し地点がわかったのだけど、実力以上に奥にはいりすぎた。 それに青年のおかげで最奥の村、Auvare に行けたのだから、感謝こそすれ・・ ・ 
 かなりあせった状況の所へ、後ろから車が。ご婦人がその母親をのせて、Puget- Rostang から Puget-Thenier の町に行く所だった。 快く乗せてもらった。私は、事情を話し、これで救われた、と感謝した。そし て、行きは、おなじ Puget-Rostang の家具職人の青年に乗せてもらった、と話 し、Rostang に人はみんな親切だ、と付け加えた。もちろん、婦人には青年が誰 だか分かった。 
 この婦人は、「ルノー屋さんの前に迎えに行くから、そこで待っててね」といい ながら、おばあさんを町で降ろして、私を川向こうの駅まで送ってくれた。 ありがとう。これで、rendez-vousができる。 
 Puget-Thenier を出た気動車は、つぎに Touet-sur-Var に止る。3年前、ペタ ングをしていた空き地にきょうは誰もいない。斜面には、沢の上に建つ、あのす ばらしい教会が見上げられる。 
 あとは、Var 川にそった単調な下りだ、という意識が手伝って、ニースの手前ま で眠ってしまう。

 
山奥の村、Auvare。
Tuet-sur-Var の駅

   前へ  次へ  目次へ  ホーム