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5 4時からの個人レッスン 



4時から5時まで、オプション的に1時間のコマが設定されている。わたしは、日本から申し込むときに、これを申請したかどうか、すっかり忘れていた。しかし、クラス編成表には、選択してある印があった。 結局、全校でこれをとっているのは、私だけである事がわかった。

やれやれ。(ところが、実はとてもやれやれではない事態が待ち受けているのであった。)

第1週の火曜日の3時限の終り際に、教室で、ナタリーは私に「あなたはもう1時間とっているわね。ちょっと休憩をとるので、ここで待っててね。」とのこと。(月曜日の午後はいつも休講)

4時、教室に一人でいると、ナタリーが入ってきて2人だけになる。入り口の扉をしっかり閉めたものかためらってしまう。

C'est la lecon particuliere? と聞くと、Oui.と答えてくれる。 Lecon Particuliereというと、女教師と思春期の少年の関係を描いた青春映画の題名ではないか!

もともとこれは個人授業ではないが、ほかに希望者が無いので、結果的にそうなってしまった訳だ。授業の内容は二人で決める事であり、学校は特に関知しないという。 初日は世間話、2日目は、フランスの男性はいかに家事の手伝いをしないか、というはなしになり、いささかつまらない。だが、フランスは移民にたいして寛容である事、同棲がふえており、同棲者の権利が認知されつつある、などおもしろい話しもある。

3日目、私がプロバンスに興味がある、ということでミストラルのミレイユという叙事詩の話しになってからおもしろくなる。 プロバンス語というふるい言葉があるが、標準フランス語にのっとられ、影が薄くなっている。これが言語学的にどのようなもので、どのように守っていくか、というようなことに話しが及び、わたしには極めて興味深い。

当初期待した仏語研修から一歩、文化や言語学に踏み込んだ訳で、これは(日本の)地方に住むわたしには金(授業料)や時間(5時におわると仲間はみんな帰った後)に代えがたい収穫であった。

金曜日、ナタリーは、「ミレイユ」をもってきて、この叙事詩のあらましや、前書きを説明してくれた。3センチ厚くらいのペーパーバックで、詩の部分は、左右のページでプロバンス語とフランス語の対訳になっている。身分の違いから、むすばれない男女の恋をプロバンスの風物を織り込みながらかたっているのだという。

「友人からもらったものと重複している」との理由で、結局この詩集をもらってしまった。