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9 Entrevaux



Entrevaux(アントルボー)は、ニースからプロバンス鉄道で1.5時間も山の中に入ったところにある寒村だ。  学校の女性教師レオノールが、ぜひいってみるとよい、と薦めてくれたのがここだった。彼女は、翌日(つまり行く前日)、ふるいニースマタン紙の記事のコピーをもってきてくれた。これには、夏祭りの様子が写真入りで紹介されていた。

 2月26日土曜日、朝は早めに目がさめ、ニースに向かった。列車がニースについたのはまだ8時前。駅を出て東へ歩き、ガードをくぐってドゴール広場へ。 朝市が賑わっている。果物、野菜に混じって魚が多い。驚いたことに、魚の卵が各種売られている。  この広場に面してプロバンス鉄道の荘厳な建物がそびえている。しかし、これはもはや現役ではなく、現在の駅舎は、その裏手をずっとまわりこんだところにる。モダンな駅舎でEntrevaux往復の切符を買う。ホールには、ほとんど手作りの観光パンフがいろいろあるので、ピックアップしておく。

 1両編成のディーニュ行き車両はすぐにいっぱになる。発車間際になってショックがあったが、「ギアでもいれたんだろう」とおもっていたら、実は、急遽もう1両増結したのだった。しばらく路面電車のように路地裏をはしったあと、登りながらトンネルをくぐり、バール川の谷に出る。ここからは川に沿って、N202と並行にひたすら登って行く。次第に谷は細くなり、ときどきあらわれる集落で停車して行く。N202は、スキーを積んだ乗用車が多い。ぼちぼち雪がでてきたら、Entrevauxに到着。時刻は10時半。長い旅だが、景色に退屈はしない。

 ここでは、鉄道と道路が並行して走り、対岸はガケで、川をわたらずにはアクセスが難しい地勢になっている。そのガケのわずかなテラスを利用して、城塞都市としての、集落が作られている。わざわざこんな作り方をするのは、防衛上の理由からであろう。唯一の石作りの橋さえも、一部が跳ねあげられる構造になっている。街の中の広場にたたずむ。小さい泉。時間が止まったように、中世のままの雰囲気である。観光のために残されているのではなく、実際に人が生活をしており、パン屋やキャフエもそろっている。子供たちがボール蹴りをして遊んでいる。 教会を見学する。教会の広場で夏祭りの「踊り」があるらしい。

 駅でもらったパンフのモデルコースによると、このあと12時17分のニース行きでTouet-sur-Varまでもどることになる。ところがこれが20分近くおくれてくる。わかっていれば、もっと町ですごすことができたのに。  Touetでは、パンフにしたがってChez Paulで昼食にする。うさぎ肉の料理にしたが、値段の割にはおいしいものが食べれた。このレストラン、けっこう繁盛していた。じつは、ほかにレストランがないのだ。  そのあと、ガケの上にある集落へあがる。全体が岩の城のような構造になっていて、それに巣食うように各戸がつくりこまれている。そして、その中を路地が通っている。まさに、中世の町がそのまま現代にシフトして来たようだ。

 パンフにかかれている教会にはカギがかかっている。残念だな、とおもって下の町までおり、Chez Paulのおやじに、「教会へはどうしたら入れるの?」とたずねる。「あんた、いまから上っていくつもり? なら..」といってばかでかいカギをかしてくれる。ズボンの後ろポケットにはいらないくらい大きい。 もういちど上の集落までのぼり、ひとり、教会の中に入ると、さすが敬虔な気持ちになる。この教会の下を沢がながれており、聖堂のほぼ中央の床にはめられた木のフタをのけると、はるか下に滝のように流れる沢がみえ、沢の音とともにすずしい風が床から吹きあがる。ふしぎな構造だ。

 帰りの列車までまだ1時間あるが、もうとくにみるものはない。ここはフランスのいなか。時の流れをそれにあわせてゆっくりしよう。ホームのベンチにすわり、駅の構内でペタングをする人たちをぼんやりながめ、自分がここに存在している、というその事実を楽しむ。遠くの山は真っ白だが、風はちっとも寒くない。もう春だ。 遅れて4時ころになってようやく来た列車は、旅行者、地元の人で満員。ニースまで1時間とすこし立つことになる。

 ニースでは、レコード店でプロバンス民謡のCD(セーデー)を買い、大通りにでると交通が遮断されて、カーニバルのパレードの準備が始まる。ところがパレードの開始は9時だと言う。あまりにも遅い。(帰ってしらべたのだが、この夜はDefile aux Lumieres、光のパレード があるようになっている。ま、これは一人でみても仕方があるまい。) ニース発8時ちょうどのボルドー行き夜行(これは国際列車だった)に少しだけのり、宿までもどった。ながい1日がおわった。

PS 1

Entrevauxというのは、たぶんほかの沿線の寒村同様、かなり地味です。ですから、Cote d'Azurのブリリアントな「何か」を期待して行くと失望するでしょう。 たとえば、近鉄の室生口大野から室生寺へいく、なんてことを想定するのがよいかもしれない。 

PS 2

列車の便数がすくないので、残念ながら必然的にモデルコースのような行動パターンになってしまいます。