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17 フィリップのこと 



こ わたしが教わったわけでもない、フィリップ先生が登場するには、ちょっとした 訳があるのです。

彼の第一印象は、以下のように、あまりよくない物でした。 わたしが受付けで、 「Could you fax this to Japan for me, please? 」なんて英語で言っていたら、通り がかった彼が、 「ふらんすごだーけ」 と、日本語でいうのです。 気分を害したわたしは、 「もにょもにょもにょ」 と、フランス語で言い直しました。彼はそれを聞いて 「Bravo!」 といってはくれましたが。

それから、記念写真をとっているとき、「fromage!」なんていう。 これ、普 通?

第1週と第2週の間の日曜日、わたしはニースのカーニバル見物から早めに帰 り、サンドイッチか何かで夕食をすませた後、「さて、海岸でも散歩してこよう か」とレジデンスを出ると、向こうから彼が。 調子良く、ヤア、と握手を求め てくる。 7時半に、きょう到着した日本人の学生グループとrendez-vousがあるという。 まだ45分もある。というわけで、時間つぶしに夕べの海岸を散歩する事にす る。海岸といっても、砂浜ではなく、コンクリートの歩道です。おなじところを 3往復ぐらいしながら、いろんなことをはなしました。 今から思うと、現在と複合過去と近接未来だけの私のフランス語でよくも会話が つづいたなあ、と感心するのですが。

わたしは、日本人の学生グループのことを快くおもってなかったので、乗り気で はなかったのですが、彼のスズキジムニーにのって、もうひとつのレジデンス へついていきました。彼らはあまりに多人数なので、2つの宿舎に分散収容され たのです。ジムニーの幌をはずして夏のコートダジュールを走るなんて、最高だ ろうなあ。 レジデンスの食堂には、圧倒されそうな日本人の若者達。私は、学校関係者と間 違われるシチュエーションだったので、「皆さんより1週間先輩なだけです」と (日本語で)自己紹介をした。

その日の夜、ベッドでもんもんとしながら、いろいろ考えました。フィリップと の会話を思い出しながら。 あと1週間すると授業が終わり、「本命」のプロバンス旅行になる。だが、一人 でホテルを泊まり歩いて、ガイドブックにのっている観光地を歴訪する事がそん なに価値あることだろうか? 後日、家族をつれてもう一度くる事も可能なわけ だし。 それに比べて、いまの先生と生徒との組み合わせというのは、2度と再現できな い。それに授業はとことん楽しくて、ためになる。予算的にはどっこいどっこい だし。

というわけで、月曜の朝、受付嬢に、「学校があまりにすばらしいので、1週間 延長したいが、可能であろうか?」とたずねた。 彼女いわく、「午前の休憩時間に受付けへきて、申し出てくれればよいですよ 。」 どうってことない。これも、閑散期のメリットかも。