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【8】 ビュースの民宿 (3)
La Grande Bastide には久保田さんの紹介で泊まったのですが、その紹介はまた彼の描写を拝借するとしましょう。

 斜面を利用して立てられているその農家は、正面から見ると地面から石段が 2階の入り口に伸びている4層作り。1層目は物入れのようで、窓がついた 住居として使っているのはそのうえ3層。母屋と、これまた3層はある大き な納屋のあいだを通り、左手に斜面をあがると建物の裏庭に出る。草一面の 裏庭は、斜面を削り取って作ったのか、斜面につながる2メートルほどの崖 と建物のあいだに広がっている。大きさはテニスコート3面ほどはあるかな? 裏庭といっても決して狭くない。 裏庭から建物に直接はいる入り口があり、入るとそこは建物の3層目。左手 に滞在客用のキッチンがあり、右手に丸いダイニングテーブル。右手の奥に はさらに部屋が見え、そこは6つの椅子がおかれた長方形のダイニングテー ブルと、3つの椅子の丸いテーブルおかれ、壁際にはまきストーブとソファ。 
 客はここで朝食をとるのだが、雨でも降らない限り誰もここでは食事をしな い。裏庭に用意されているパラソルのついた4つのテーブルで食べる。 
 キッチンの奥の壁に、右手にあがる石の階段があり上へ続く。8段ほどあが ると小さなホールへでる。出るといっても小さな石の階段の造りの加減か、 屋根裏へもぐりこんだといった感じ。けれどホールの天井は低くない。頭上 1メートルはある。 
 ホールから3つの客室と、1つのシャワー室にアクセスできる。ホールから さらに3段ほどの石の階段があり、各部屋のドアに続く。1室へは下り、他 の3室へは昇りの階段。 
 わたしの泊まった部屋は、去年はホール左手すぐのもの、今年はホール右手 一番奥の部屋でした。いづれもシャワー付きでした。 
 さて、いよいよ「簡素にして美的、そして広く重厚」について、書かなけれ ばならなくなった。 
 部屋の広さは20畳(気分として。正確には計っていません)。床には陶製 のタイルが敷き詰められ、壁と天井は白いしっくいで塗りこめられている。 最上階4層目のその部屋は、屋根の真下、いわゆる屋根裏部屋で、天井は外 部に向かって低く傾斜している。傾斜に向かって木地をむき出しにしたはり が走る。床のタイルは「備前の焼きしめ」に似た濃い茶色。にぶい光沢をはなち、ひとつひとつの焼きむらが、床全体で床のタイルは「備前の焼きランダムなグラデュエーション を描いている。 
 大きなベッドと陶製のスタンドが載ったサイドテーブル、これまた日本の家 庭のダイニングテーブルほどの机に2つの椅子、5人は優に入れそうな衣装 キャビネット、はげかかった革張りのソファが、壁に沿って配置してある。 家具は全て木製の年季の入った古い物。個々のデザインは、統一されたもの ではないは、デザインが明らかに机と異なる)、広い空間におおらかにおか れて、一種「昔の農家風」といった様式をかもしだしている。 きけばこれらの家具は、ここのご主人、ジャナレーンが家具市で集めてきた 物だそうで。
 外側に面した壁に小さな窓がある。床から30センチの高さ、50センチ四 方ほどの窓は、あつさ50センチほどもある壁(前に1メートルと書きまし たが、写真を見たらこのくらいでした)の奥に、内側に開くガラスの戸と、 その先に、外側に開く横板張りの木の扉。この小さな窓が外界に開けるたっ たひとつの窓。サイドテーブルのスタンドの灯をつけると、スタンドの光と この窓を通ってくる光が、白いしっくいに反射し、室内は思ったより明るい。 
壁は2つの光源から遠くなるにしたがい、折り目折り目を起点に違ったグラ デュエーションをつくる。 

<中略> 

 これに比べて、また他に泊まったどのホテルの部屋に比べ、ビューの民宿 は、「簡素にして美的、そして広く重厚」の表現には十分到達できなかっ たが、そのひっそりと香るプロヴァンスの田舎的・空間美的香りは、「ま た行きたい」と思わせるものをしっかりと持っている。 

 そうです、わたしはこの「ホール右手一番奥の20畳ほどの部屋」に一人で3泊したわけでした。 

 プロヴァンス風に建てられた家の中で、窓を閉めているのがベスト。その 農家は1メートル近い石の壁で、小さな窓が1部屋にひとつ。窓は2重で、 ガラス窓の外に木で作ったものがもうひとつ。その木の窓の戸を閉めてお けば、日中でも部屋の中は裸足で歩く石の床がひんやりするほど。 

 時は3月。朝は、びっしり霜がおりました。夜、暖炉にはまきがくべられ、暖気が逃げないように、階段の下には毛布のように厚いカーテンが。 そう、自分の部屋に入る前に3段ほど石の階段をのぼり、厚い木製のドアをあけます。入り口の間は洗面所・シャワー室、もう1枚木の扉を開けて寝室です。一晩じゅう電気のパネルヒーターをつけっぱなしにするくらい、夜は冷えこみましたね。だから、庭で朝食をとる気分にはなれませんでした。 

 それにしても、たっぷりつかれて毎晩よくねむりました。そしておめざめぱっちり。8時半にたのんだ朝食まで時間があるので、日の出前の散策に出かけたものでした。日の出は7時すぎでしたからねえ。

 
リュベロン台地にある標識
リュベロン台地にあるボリー(農作業小屋として使われている)

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